「熱中症対策に、冷たいスポーツドリンクを飲むのは体に悪いらしい」
そんな噂を聞いて、わざわざ常温に戻して飲んでいる方はいませんか。
実はこれ、半分は正しく、半分は誤解です。ポイントは「冷たいかどうか」ではなく、「何℃で」「どんなスピードで」飲むかにあります。
この記事では、その科学的な理由を解説したうえで、ご高齢の方とそのご家族、そして部活などで運動に励む学生・指導者・保護者、それぞれに向けた具体的な飲み方をお伝えします。
冷たい飲み物は、むしろ正解です
結論から言うと、熱中症対策として最も効果的な飲み物の温度は5〜15℃。冷蔵庫から出して、ほんの少し置いたくらいの冷たさです。
理由は2つあります。
ひとつは、体の芯を直接冷やせること。
私たちの体には、皮膚の温度とは別に、脳や内臓など体の中心の温度である「深部体温」があります。熱中症とは、この深部体温が危険なレベルまで上がってしまう状態のこと。5〜15℃の飲み物は、体の内側から熱を奪い、上がった深部体温を効率よく下げてくれます。
もうひとつは、胃からの吸収が速いこと。
適度に冷えた飲み物は、胃にとどまる時間が短く、すばやく腸へ送られて吸収されます。ぬるい飲み物より、5〜15℃の方が吸収スピードで勝るのです。
なお、スポーツドリンクを凍らせるのはおすすめしません。糖分などの成分は水より重いため、容器の下の方に濃く固まって凍ってしまい、溶け始めと最後で濃度がバラバラになります。凍らせるなら水にしましょう。
では、何がいけないのか
噂の正体はここにあります。危険なのは冷たさそのものではなく、キンキンに冷えたものを一気にガブ飲みすることです。
急に大量の冷たい液体が胃に流れ込むと、胃腸の血管が急激に縮み、自律神経がパニックを起こすことがあります。これを迷走神経反射と呼びます。
迷走神経とは、心臓の拍動や血管をコントロールしている神経のこと。これが強い刺激に過剰反応すると、血圧が急に下がり、脈が遅くなります。その結果、めまい、冷や汗、吐き気、顔面蒼白、ひどいときには失神を引き起こします。ショック症状によく似た、神経のフリーズです。
このほか、冷たい刺激は激しい腹痛や下痢の原因にもなります。
つまり大切なのは、適度な冷たさとゆっくり飲むスピード。この2つが揃って、はじめて冷たい飲み物は最強の味方になります。
ご高齢の方とご家族へ
ご高齢の方の熱中症対策は、運動する若者とは考え方がまったく異なります。キーワードは「気づかないうちに脱水している」ことです。
のどの渇きは、当てになりません
私たちの脳には、体の水分が足りなくなると「のどが渇いた」と教えてくれるセンサー、口渇中枢があります。
ところが加齢に伴い、この口渇中枢の感受性が低下します。つまり、体は脱水しているのに、本人はのどの渇きをほとんど感じないという状態が起こるのです。これが「かくれ脱水」の正体で、気づいたときには重症化していることも少なくありません。
だからこそ、のどの渇きを合図にしてはいけません。
- 時間で管理する。1〜2時間おきなど、時計を見て「のどが渇く前に」飲む
- 少量頻回。一度にたくさんではなく、コップ1杯をちびちび、こまめに
- 生活の節目を利用する。起床時、食事、入浴の前後、就寝前など、タイミングを決めて習慣化する
ただし、飲めば飲むほど良いわけではありません
若い方と違い、ご高齢の方では水分・塩分の摂りすぎも大きなリスクになります。心臓や腎臓の機能が低下している場合、体は余分な水分・塩分をうまく処理できません。
- 心臓の負担が増え、心不全(肺に水がたまる肺水腫)を招く
- 急激な血圧の上昇
- 手足や顔のむくみ
心臓や腎臓の病気などで、主治医から1日の水分量を指示されている方は、この記事の目安量よりも医師の指示が最優先です。自己判断で水分を増やさず、必ず事前に主治医へご相談ください。
日常は「麦茶+梅干し」が基本
熱中症対策イコールスポーツドリンク、と思われがちですが、日常生活での常飲は考えものです。糖分が多く、飲み続けると血糖値が慢性的に上がるペットボトル症候群のリスクがあるからです。
場面ごとに使い分けましょう。
- ふだんの水分補給は、麦茶や水。梅干しを添えれば塩分もほどよく補えます
- 汗を多くかいた日や入浴後は、スポーツドリンク。糖分と塩分が吸収を助けます
- 下痢や発熱時など脱水気味のときは、経口補水液。塩分濃度が高く、脱水からの回復に特化しています
なお、緑茶やコーヒーは利尿作用があるため、水分補給の主役は麦茶や水にしてください。
目標は、食事以外で1日およそ1.2リットル
環境省の熱中症環境保健マニュアルでは、食事以外の飲み物から摂る水分の目安を1日およそ1.2リットルとしています。コップ1杯を200mlとすると、6杯分です。
一度に飲むのではなく、1日6回程度に分けて。これが少量頻回の実践形です。
部活・スポーツに励む学生へ
運動中は、汗で大量の水分と塩分が失われます。ここでは、トップアスリートも使う戦略を紹介します。
プロの知恵① マウス・リンス
サッカー中継で、選手がドリンクを口に含んでそのまま吐き出しているのを見たことはありませんか。
もったいないように見えますが、これは炭水化物マウス・リンスと呼ばれる、れっきとした科学的戦略です。
口の中には、糖分を感じ取る受容体があります。糖分を含む液体で口をすすぐと、飲み込まなくてもその情報が脳へ伝わります。すると脳の報酬系、つまりやる気に関わる領域が活性化し、「エネルギーが入ってきた」と錯覚するのです。その結果、疲労感がやわらぎ、集中力が上がります。
しかも飲み込まないため、運動中に胃をタプタプにせず、胃腸のトラブルも防げます。脳をだまして、体は軽いまま。実に合理的な方法なのです。
プロの知恵② 浸透圧を使い分ける
飲み物の吸収スピードを左右するのが浸透圧です。浸透圧とは、ざっくり言えば液体の濃さのこと。体液と比べて濃いか薄いかで、吸収スピードが変わります。
運動前や運動の序盤には、アイソトニック飲料、つまり通常のスポーツドリンクが向いています。体液とほぼ同じ濃さで、糖分と塩分をバランスよく含み、エネルギーと水分をしっかり補給できます。
大量に汗をかいた運動中から運動後には、ハイポトニック飲料が最適です。体液より薄めに調整されているため、濃度が低いぶん水分の吸収がより速いのが特徴です。
ちなみに、スポーツドリンクの糖分は甘くするためだけのものではありません。腸にはSGLT1という運び屋があり、ブドウ糖とナトリウムが一緒にあると、それに引っ張られて水分も一気に吸収される仕組みになっています。だから糖と塩はベストコンビ。ただし濃すぎると逆に吸収が遅れるため、薄めすぎも濃すぎもよくありません。
塩分タブレットの落とし穴
暑い日の定番、塩分チャージタブレット。1粒で食塩相当量はおよそ0.1gです。手軽ですが、舐め方を間違えると、かえって脱水を悪化させます。
理由は、またしても浸透圧です。水なしでタブレットだけを舐めると、腸の中の塩分濃度が急に高くなります。すると体は濃さを薄めようとして、腸の壁から水分を引き出してしまうのです。
塩分を摂ったつもりが、逆に体の水分を奪われる。これが塩分タブレットの罠です。
必ず水コップ1杯、100〜200mlとセットで摂ってください。水なしで何粒も舐め続けるのは避けましょう。
運動中と運動後の数値ガイド
運動中は、20〜30分ごとに150〜200mlを目安に補給します。
胃が1時間に処理できる水分量には限界があり、およそ800mlが上限とされます。それ以上を一気に流し込んでも、胃に溜まって気持ち悪くなるだけです。一気飲みではなく分割給水が鉄則です。
運動後は、運動の前後で体重を量ってみてください。減った分の大半は、汗で失われた水分です。
日本スポーツ協会などの指針では、失った体重の1.5倍の水分を、その日のうちに補給することが推奨されています。たとえば体重が1kg、つまり約1リットル減ったなら、約1.5リットルを補給します。
なぜ1.5倍も必要かというと、飲んだ水分の一部は尿として出ていくためです。失った量とちょうど同じだけでは、完全には回復しません。少し多めが、確実なリカバリーのコツです。
まとめ
- 冷たい飲み物は敵ではありません。熱中症対策には5〜15℃がベスト。深部体温を下げ、吸収も速い
- 危険なのは、凍った氷水を一気飲みすること。迷走神経反射や腹痛のもとになるので、ゆっくり飲む
- ご高齢の方は、のどの渇きが当てになりません。時間を決めて少量頻回。日常は麦茶と梅干し、目標は食事以外で1日約1.2リットル。ただし持病がある方は必ず主治医に相談を
- 学生スポーツでは場面で使い分けを。運動中は20〜30分ごとに150〜200ml、運動後は減った体重の1.5倍を補給。塩分タブレットは必ず水とセットで
正しい知識は、あなたと大切な人の命を守る一番のお守りです。この夏も、賢く水分をとって元気に乗り切りましょう。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の診断・治療に代わるものではありません。持病がある方、体調に不安のある方は必ず医師にご相談ください。
参考
- 環境省「熱中症環境保健マニュアル」
- 公益財団法人 日本スポーツ協会「スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック」
- 慶應義塾大学スポーツ医学研究センター
- 日本気象協会「熱中症ゼロへ」
- 公益財団法人 長寿科学振興財団「健康長寿ネット」

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